文化資本としての和太鼓が持つ経済価値を探る|和太鼓と経済 vol.2

文化資本としての和太鼓が持つ経済価値を探る|和太鼓と経済 vol.2

和太鼓の「ボランティア性」と経済価値の不均衡について|和太鼓と経済 vol.1では和太鼓が「郷土芸能(地域の祭事や神事)に代表される文化的価値」や、「地域コミュニティやアイデンティティの形成に寄与する社会的価値」が高く評価されているからこそ、公共財(制限なく多くの人が消費できる財やサービス)としての性質を内包している楽器であり、その結果、商業的な経済価値と結び付きにくく、無償によるボランティアまたは低報酬での演奏になりやすい点が課題であると述べた。

和太鼓と経済 vol.1

和太鼓の「ボランティア性」と経済価値の不均衡について | 和太鼓と経済 vol.1

日本古来より人々の生活の中にある「日本太鼓=和太鼓(以下和太鼓と表記)」は現代においても文化的・社会的価値が認められている一方で、経済価値においては市場の中で低く評価されている…

公共財としての側面は和太鼓における一つの顔でしかないが、祭事や神事の中心となり、地域におけるコミュニティ形成の中心となる文化的・社会的価値は他の楽器では珍しい稀有な特性である。そのためボランティア性や低報酬はそういった文脈の中では必要な要素であり、『必ずしも解決しなければいけない課題』ではない。

あくまでも『和太鼓の持つ芸術表現としての一面』においてそのイメージは強烈であり、「和太鼓奏者は演奏技術を経済資本と結び付けた適正価格での演奏することができていない」というのが本稿で論じたいテーマである。

また、和太鼓奏者も和太鼓が内包している文化的価値から生じる経済価値しっかりと認識しておらず演奏技術だけを売りとするため、市場における適正価格を提案できていない点も課題である。

今日まで和太鼓は地域コミュニティやアイデンティティの形成など非常に豊かな社会的な効果をもたらしてきた。和太鼓から鳴り響く音に触れることで古の時代と今を結びつけることができる楽器はそう多くはない。しかし、現代の資本主義社会においては、いかに歴史的に優れていようとも、いかに文化的価値を持っていようとも、いかに社会形成において重要な役割を担っていようとも、経済に結び付かなければその存在を維持することは叶わない。

持続可能性を維持するにはお金がかかる。経済循環が起きなければ、業界そのものが斜陽化していき、やがて風前の灯として和太鼓そのものが危うくなってしまう

かつて信仰が社会の中心であった頃、人は精神的対価で動けた。しかし、今は資本主義社会である。人が求める対価は「経済的対価」である。資本主義に適応しなければ滅びてしまう可能性からは脱却できない。

つまり、和太鼓の文化的価値が経済原理と適応し、和太鼓市場が成長することが、結果的に和太鼓の文化的価値・社会的価値を守り、さらなる経済価値の創出へと繋がっていくのである。

本稿では和太鼓の文化資本について整理し、経済資本とどのように結びつけることができるか、そしてどのようにして経済的価値を活かしていくのかを考察する。

2. 文化資本としての和太鼓とその経済的価値


文化資本(Cultural Capital)とは、フランスの社会学者 ピエール・ブルデュー(Pierre Bourdieu) によって提唱された概念で、人々が持つ 知識、技能、趣味、文化的教養、資格、芸術的感性 など、 経済的な価値には直接換算しにくいが、社会的な評価や地位獲得に影響を与える資本 のことを指す。文化資本は『体現された文化資本』『物象化された文化資本 』『制度化された文化資本 』の3つに分類され、和太鼓は文化資本に当てはまる性質を内包している。
文化資本の種類 概要 和太鼓の例
1. 体現された文化資本
(Embodied Cultural Capital)
人の身体や知識・技能として蓄積されたもの(学習や経験による習得) 和太鼓の演奏技術、伝統的なリズムの知識、表現力
2. 物象化された文化資本
(Objectified Cultural Capital)
物理的な形を持つ文化的な財(道具・作品など) 和太鼓そのもの、和太鼓を用いた楽曲、舞台衣装、楽譜
3. 制度化された文化資本
(Institutionalized Cultural Capital)
資格や学位、公式な評価(社会的に認められた文化的価値) 和太鼓の演奏資格、伝統芸能としての指定、文化財認定

一朝一夕では身につかない 演奏技術 知識 和太鼓そのものの物理的な存在それを用いて生まれた作品 、公的に文化財 として認められるような制度が「 文化資本 」として価値を持つ。

また、和太鼓に触れ、携わることで「和太鼓を通じて得られる健康的な肉体や立ち振る舞い、日本的な感性から磨かれる美意識」は社会生活の中で高く評価される。


これらの文化資本が 経済資本 (財やサービスの生産、流通、消費に直接的に関与する資本)と結びつくことで市場が形成される。
経済資本の種類 概要 和太鼓の例
1. 直接的な経済資本 和太鼓に関連する直接的な経済活動 和太鼓の販売、修理、公演収益
2. 間接的な経済資本 和太鼓を活用した副次的な経済活動 和太鼓教室・ワークショップ、観光業
3. 派生的な経済資本 和太鼓による経済的な波及効果 和太鼓関連の衣装・アクセサリー、地域経済への波及効果

しかし、和太鼓はこれらの文化資本的な性質に加えて「祭囃子」のように地域の文化と根付く公共財としての側面を持つ。社会的に高い価値を持つ公共財は市場原理に乗りにくいため、より経済的な報酬が発生しにくい

そのイメージは和太鼓全体に浸透しており『和太鼓の演奏にお金を払う(対価を支払う)』という経済行動が生じにくく、結果として本来であれば経済的対価を貰うべき演奏依頼でも、無償の演奏や低報酬の依頼が多くなる。

「社会全体にとって価値があるが、個々の奏者には直接的な利益が生まれにくい」 という状態になる。これが和太鼓市場の成長を妨げ、経済価値の不均衡を生み出している。


そのため、和太鼓の演奏は「 社会全体にとって価値があるが、個々の奏者には直接的な利益が生まれにくい 」 という状況が生じ、これが和太鼓市場の成長を妨げ、経済価値の不均衡を生み出してしまった。

では、どのように和太鼓の文化資本を経済資本と結びつけることができるのだろうか?また、和太鼓特有の公共財としての側面を上手く市場の成長・拡大に生かす方法はあるのだろうか?


筆者及び弊団体(日本太鼓研究機関 鼓蓮)は、和太鼓業界が抱える多くの課題を根本的に解決することは難しいと考えている。なぜなら、 その構造上の課題が和太鼓が他の楽器とは異なる文化的・社会的価値の高さを生み出す要因にもなっている ため、仮に課題そのものを解決してしまうと、和太鼓の持つ特別な強みが全て失われ、『 数ある打楽器の一つ 」というポジションに納まるリスクを孕んでいるからである。

そのため、課題そのものを解決するのではなく、文化資本×経済資本が結びつくビジネスモデルを創出することで、和太鼓の持つ文化的・社会的・公共的な性質を損なわせずに次項より考察していく。

和太鼓の経済的価値とその活用方法の考察

文化資本の概念に基づくと、和太鼓は単にパフォーマンスをするために製造された楽器ではなく、「地域の歴史・伝統・共同体意識を象徴する資産文化財」としての側面がある。それと同時に和太鼓には経済資本としての側面(販売・演奏収益)も持ち合わせている。これを地域経済に結びつけることで、和太鼓市場のさらなる拡大と経済波及効果が期待できる。

この「文化財を活用して地域経済を発展させる」という発想自体は19世紀のイギリスで起きた産業革命の時代には既にあり、観光資源として文化財を活用するモデルの歴史は長い。そのため地域に眠る文化財の活用による経済活性化という戦略は多くの地域で試みられ、研究されてきたにも関わらず、目にみえる成功事例は少なく、理想論と揶揄される事もしばしばみられる。

失敗してしまう要因として「文化財の公共財性がもたらすジレンマ」「文化資源の差別化が困難」「地域住民の主体性の欠如」「行政と民間の連携不足」が挙げられる。

(1) 文化財の「公共財性」がもたらすジレンマ
文化財は本質的に「公共財」としての性質を持つため、市場原理に乗せにくい。
公共財の特徴として、非排除性(誰でも利用できる)非競合性(誰かが使っても減らない)がある。
これにより、以下のような問題が生じる:
  • 利益が特定の事業者に集中しにくい(例:観光客が増えても、文化財管理者には直接の収益がない)。
  • フリーライダー問題(例:文化財を活用したイベントを行政が支援すると、特定の企業だけが利益を得ると批判されやすい)。
  • 価格設定が難しい(例:神社仏閣などの文化財は無料公開が基本であり、収益化しにくい)。
結果:「経済合理性」が働きにくく、ボランティア精神や補助金頼みの運営になりやすい。
(2) 文化資源の「差別化」が困難
地域資源としての文化財は、独自性が弱いと競争力を持たない。
たとえば、「城」や「温泉街」の活用は全国で見られるが、単なる観光資源としては類似プロジェクトが多く、この地域に行きたいと思わせる差別化が難しい。
  • 文化的価値は地域住民にとっては「当たり前」になっているため、外部から見た際の魅力を適切に認識しにくい(地元に住む人ほど、文化財を過小評価しがち)。
  • ブランド化のための物語づくり(ストーリーテリング)が不足すると、観光客にとって記憶に残らない。
結果:「どの地域も似たようなことをやっている」ため、特色を打ち出せず、埋没しやすい。
(3) 地域住民の「主体性の欠如」
文化財を活用するには、地域住民の『主体的な関与』が必要だが、以下の問題がある:
  • 文化財活用の負担が一部の人に集中する(例:観光ボランティアや祭りの運営が高齢者に依存)。
  • 若年層の関心が低い(例:「地元の文化を守る」ことに対する意識が希薄)。
  • 経済的インセンティブが不足(例:地域住民が参加しても『個人の収益』にはつながりにくい)。
結果:プロジェクトが一部の熱意ある人に依存し、持続性が失われる。
(4) 行政と民間の「連携不足」
文化財活用には官民連携が不可欠だが、以下のような問題がある:
  • 行政主導のプロジェクトは「イベント依存」になりやすい(例:補助金事業としての短期的なイベントはあるが、継続的なビジネスモデルがない)。
  • 民間主導のプロジェクトは社会的信用を得にくい(例:「文化財を民間が儲けの道具にするな」との批判が出やすい)。
  • 法律・規制の壁(例:文化財の商業利用には厳しい制限があるため、自由な活用ができない)。
結果:実行力のある企業が参入しにくく、行政依存になりやすい。

失敗要因を引き起こす文化的活動や芸術活動は、しばしば市場経済と対立する傾向にある。ピエール・ブルデューの著書ディスタンクシオン(1984年)で「文化資本は経済資本とは異なるロジックで機能し、(文化資本の)商業化が進むと本来の象徴的価値を失い、単なる商品と化す。」と指摘しており、産業化を推し進めるあまり「純粋性」が損なわれていくと批判している。その結果、文化の担い手に経済が回らず衰退していってしまうというジレンマに陥ってしまうのだ。


これらの課題を解決するには『文化財の経済合理性を確立し、その独自性を活かしつつも、住民に経済的インセンティブを提供することが必要ととなるが、それは「文化財を中心に置いた多角的な収益方法」を確立し、「 文化財のユニークなポイントを徹底的に洗い出し、その地域でしかできない体験に昇華する」ことと「 地域住民・事業者に対して経済的な利点を与える」仕組みを構築するという一大プロジェクトを成立させなければいけない。

地域の文化財の純粋性を維持しながら、その文化を経済的に発展させるには多大なコストがかかる。このコストは金銭的なコストだけではなく、地域住民の理解を得る啓蒙活動や、地域文化並びに地域産業を結びつける調査と…取り組むべきことが非常に多い。

また、「演奏の価値を高める仕組み」×「経済的インセンティブを地域に還元するモデル」を一つの団体や和太鼓奏者が生み出すことは非常に難しく、今すぐに行動できるアイデアではない。しかし、このコンセプトは必ずしも『地域経済の活性化』というマクロ視点でしか活用できないものではなく、和太鼓奏者という最小単位のマクロ視点でも活用可能である。


そこで筆者及び弊団体では『和太鼓という「」を活用した地域産業の確立と経済活性化の可能性』を提唱し、地域産業の活性化を和太鼓で担える可能性をここで提示する。

まず「① 和太鼓を『中心に置いた』地域産業の創出」というマクロ視点での解説を行い、次に「② 体験型経済に適応する『コト』の商品化」というミクロ視点での価値の活かし方を述べる。

最後にマクロとミクロの2つの視点を結ぶ「③ 和太鼓奏者と企業や行政を『適正な報酬』で結ぶ仕組みの構築」という弊団体(日本太鼓研究機関 鼓蓮)が取り組む活動について簡単な紹介をして本稿を締める。

「文化的価値を最大限に生かした間接経済効果の最大化」や「文化資本を活用した教育プログラムへの活用」といった文化資本×公共財的特性に関するテーマについてはまた別の機会に述べることとする。

① 和太鼓を『中心に置いた』地域産業の創出

地域産業とは、特定の地域(市町村・都道府県・広域圏など)内で展開されるその土地の特性や資源を活かして発展する産業の総体を指す。地域の自然環境歴史文化社会構造経済状況密接に結びついており、それらの経済循環地域経済を形成する

あらゆる地域には、その地域に根ざした産業があり、その地域内特有の経済環境が存在する。地域産業が発展するにはその地域内で行われる消費者行動の活性化が必要不可欠であり、地域住民や観光客による商品・サービスの購入活動消費活性化すると、地域内で経済循環が促進される。

和太鼓はこうした地域経済の中で既存の地域産業と結びつくことによって、新たな産業を創出するポテンシャルを持ち合わせている。

既存の地域産業 和太鼓との結びつきによる新産業創出の可能性
観光業 和太鼓を活用した「演奏体験会」「和太鼓演奏宿泊プラン」
飲食業 演奏付きのショーケース、BGMとしての生演奏
農林業 地域産木材を活用したバチ製造、太鼓革の地元生産
健康・福祉産業 和太鼓エクササイズ、和太鼓を使った介護リハビリ
教育産業 和太鼓演奏体験プログラム、学校の芸術・体育教育との連携

また、和太鼓を「公共的なもの」として、その地域では誰でも享受できるようにし、和太鼓目当てで集まった消費者に向けたサービスを提供するといったマーケティングもまだまだ発展の余地はある。


特に筆者が注目しているのがフランスで行われている芸術文化支援「メセナ(Mécénat)制度」である。企業が芸術支援を行うことで税制優遇措置を受けられ、フランスでは多くの企業及び個人がメセナ活動を行い、民間資本を文化資本に流すことで持続可能な文化保護を実現しているプロジェクトである。

日本でも文化庁が文化関係の税制優遇措置を提供しており、文化財を保有する個人や法人が控除や優遇を受けることができる。さらに公益社団法人企業メセナ協議会によって助成認定制度が運営されており、芸術文化活動に対する企業や個人からの寄付を税制面から促進している。

こうした制度をうまく活用すれば「和太鼓及び地域の和楽器産業または和楽器奏者並びに郷土芸能の支援」をすることによって『文化的・社会的な評価を得る』というステータスを企業・個人は享受することができ、それが地域産業及び地域全体のブランディングを促進することになる。


筆者は『和太鼓は利便性が高く、日本人にとっても魅力的で訴求力のある楽器であるのと同時に、世界的に見ても関心の度合いが高い楽器であるからこそ、和太鼓を中心に地域に眠る文化財や芸能、風習、技術、食材、自然を結びつけ地域経済を加速させることができる』と考えており、それは多くの事例から裏付けされる和太鼓の持つ魔力であると確信している。

大切なのは理想を語るだけでなく、実際に企業や事業者に対して『文化支援を行うことによって最終的に得られる経済的メリットとインセンティブ』の設計を濁すことなく伝え、さらに消費者に対しても『参加することで得られる価値』を明確に提示することが必要である。

その際に最もイメージしやすく、誰でも手軽に取り組めるかつ文化的社会的意義のある文化資本が「和太鼓」であり、和太鼓を中心に置くことでできる経済圏が地域経済の活性化に繋がっていく。

まとめ
地域産業は、地域の特性や資源を活かして発展する産業の総体であり、地域の経済循環を形成する。 和太鼓は観光業、飲食業、農林業、健康・福祉産業、教育産業と結びつき、新たな産業を生み出す可能性を持つ。

さらに、企業が和太鼓支援を行うことで文化的・社会的評価を高めるブランド戦略として機能しうる。

和太鼓の文化資本としての性質を持ちながら経済資本としての側面を持ち、さらに公共財としての性質を利用することで、地域の文化財や産業、技術、自然の文化的価値を損なわずに経済資本として活用できる「風」として機能する。

では具体的に「何をするべきなのか?」「何が提供できるのか?」について次項にて述べていきたい。

② 体験型経済に適応する『コト』の商品化

これまで述べたように和太鼓は「文化資本」としての性質と「公共財」としての性質を持ち合わせていながら、「経済資本」の側面を持つ楽器である。

また、「和太鼓の演奏芸」のうち、現代で演奏されている集団でアンサンブルを奏でる打法は『戦後生まれた表現』であり、実際は伝統芸能ではない

しかし、伝統楽器としての側面が和太鼓演奏=伝統的なものという印象を付与している。

結果として公共的な文化財としての性質が強く働き「ボランティア性」が高まるという経済循環を引き起こしにくい問題が生じてしまった。

前項ではマクロレベルの視点では和太鼓を「文化資本」と捉え、さらに「公共財」としての側面と「経済資本」としての側面を地域経済の活性化に繋げることで『和太鼓業界の抱える課題:ボランティア性及び低報酬の脱却+和太鼓市場の縮小』を脱却するモデルとして提示した。

しかし、マクロ的な視点は実践に落とし込めなければ意味がなく、机上の空論となってしまいます。実際に経済循環を生み出すためには『経済的な利益と持続可能性』をより具体的に提示し、具体的な経済メリットと収益構造を提示して初めて「実際に行動すべきこと」と「行動の優先度」を定めたスケジュールを組み立てることができる。

具体的な経済メリットと収益構造の提示するための設計方法
1. 市場規模と需要の定量的分析(訪日観光客数、国内需要の掘り下げ)
2. 収益モデルの具体化(価格設定、サブスクリプション、メセナ制度…など)
3. 地域ごとの最適化戦略(観光地・地方都市の違いを踏まえた施策)

具体的に設計する際は、経済的な収益持続可能な仕組みを定める必要がある。
そのため以下を明確にし、《単価×数量》の予測を組み立てる:
  • 中心的な消費者となるターゲットを明確にし、市場規模を予測する
    例:訪日外国人観光客数の調査、同事業を展開する企業の業績からの予測…など

  • 具体的なインセンティブの確立
    例:税制優遇の対象になるか否か、PR効果としてどのような効果が期待できるのか、CRS活動としてアピールする方法までの提示…など

  • 提供するサービスの持続性の設計
    例:提供するサービスの「モデル」「価格」「期待される収益」を明確にし、さらに『新規の獲得にかかるプロモーション方法及びコスト』と『リピーターが生まれる可能性の予測(繰り返し利用することで得られる消費者側の利点』を設計する…など

結果:これらを明確にした後、サービスの関係者(ステークホルダー)に経済的メリットを提示し、実際にサービスのリリースに至るまでに必要な環境・体制を整えるフェーズに移る

本稿ではあくまでも「案」レベルであり、実際のミクロレベルのプランニングまで落とし込んだプロジェクトを提示することは難しい。(もし、和太鼓を活用した地域創生に関心があるのであれば直接問い合わせをしてほしい)

そのためここでは『生成型経験経済に適応する『コト』の商品化』について述べていく。


現代の消費トレンドは物理的な財を保有する(モノ消費)価値から、商品そのものではなく、そこから得られる体験・経験に価値を見出す消費者行動(コト消費)が現代の消費トレンドの特徴である。

そして現代社会ではSNSが情報の送受信におけるインフラとして基盤を形成したことで「他の人とは異なる体験・経験をする」というコト消費に加えて、「その体験・経験を《情報の受け手》が《解釈》し、新たに生成された情報を発信する」という新たなアクションが追加されたため、コト消費はより複雑な構造の経済モデルとなった。


新型コロナウイルスの世界的流行によって『SNSの社会インフラ化』は加速し、よりデジタルと行動が密接になった。その結果他の人とは異なる体験・経験をするという従来のコト消費に加えて、その体験・経験を《情報の受け手》が独自に《解釈》し、「情報の受け手が自ら生成した情報を発信する」という消既存の情報に自身の経験・体験を付与するというアクションが追加されたため、コト消費はより複雑な構造の経済モデルとなった。

その結果、消費者は『コト消費』を単なる消費として終わらせず、その情報から得た『新たな知見』や『自身の感性』を表現し、自らをブランドとして成長させ、周囲から「尊敬の目を向けられたい」という欲求が強烈なニーズとして生まれ、コト消費はさらなる進化を遂げている

筆者はこの「体験・経験を中心に置いた情報を消費する経済」をB.ジョセフ・パイン2世とジェームズ H.ギルモアが1999年に提唱した「経験経済」の理論に基づいて独自に発展させた「生成型経験経済」と呼んでいる。

生成型経験経済は主に『身体的な没入感』『多角的なコンテクスト性』『多層構造的な価値』の3つの要素が重なっている経済的概念であり、消費者はその市場そのものに「触れる・含まれる・内包される瞬間にコトを得ている状態を指す。

そして消費者は情報そのものを消費するだけでは終わらず、その情報に自身の価値を付与して再度生成し、情報を発信する。つまり、生成型経験経済における情報消費は単なるデータの取得ではない。身体・知覚・感情・社会的関係性の中で体験を通じて処理される情報を身にまとい、消費者自身の価値を高める自己表現なのである。

生成型経験経済における情報消費の特徴
五感を通じた情報の取得
身体的没入感を伴うことで、情報が単なるデータではなく「経験」として記憶される。
例:茶道の体験では、香り・味・所作の一連の流れが情報として刻み込まれる。

情報のコンテクスト依存性
体験は、歴史・文化・地域性などの背景と結びついて初めて価値を持つ。
例:「京都の町家での和菓子作り」は、京都の歴史や文化的ストーリーを含むことで価値が高まる。

情報の拡張性と相互作用
SNSやメディアを通じて、消費者自身が情報の一部となり、新たな体験価値を生み出す。
例:USJの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」では、ユーザーが体験をSNSに投稿することで、体験の価値が他者に伝播し、新たな需要を生む。
情報の流れと消費プロセス
情報消費は、以下のようなフローで展開される。

① 情報の提供(Input)
→ 生成型経験経済の提供者(企業・地域・個人)が、経験体験を通じた情報を発信
例:伝統文化体験、エンタメ型施設、ワークショップ

② 情報の取得(Experience)
→ 消費者が体験を通じて、視覚・聴覚・触覚などを駆使しながら情報を吸収
例:アート鑑賞、スポーツ体験、地域文化体験

③ 情報の個別解釈(Internalization)
→ 消費者が自身の知識・価値観と照らし合わせて情報を再構築
例:映画の舞台を訪れることで、作品の理解が深まる

④ 情報発信(Output)
→ 体験者がSNS・クチコミ・レビューなどを通じて、情報を拡散・新たなコンテクストを付加
例:「このカフェの体験が素晴らしかった!」というSNS投稿がバズる

⑤ 情報の循環(Ecosystem)
→ 発信された情報が新たな体験を生み、次の消費者を引き込む
例:YouTuberが旅行体験を発信し、視聴者が「次は自分も行ってみよう」と思う。

和太鼓のみならずこの経済モデルは様々な場面で応用できるが、和太鼓は特に生成型経験経済と相性が良いと筆者は考えている。

以下に具体的に「和太鼓における情報消費」について紹介する。活動の参考になれば幸いだ。そしてこの活動を通じ、経済循環を得ることで和太鼓奏者・団体は『芸術表現としての演奏活動』で収益を獲得できるようになる。

生成型経験経済における和太鼓の情報消費の特徴
(1) 五感を通じた情報の取得(身体的没入感)
和太鼓の振動・音圧・リズムの身体的体験は、情報を単なる知識ではなく「経験」として記憶させる。
例:バチを振り下ろす感触、太鼓の音が腹に響く感覚、舞台の緊張感など。

(2) コンテクスト依存性(歴史・文化との結びつき)
和太鼓は「祭り・儀式・地域文化」と強く結びつくことで、単なる音楽を超えた価値を生む。
例:「地域の祭りで使われる和太鼓を体験する」 のと 「単なる太鼓の叩き方を習う」 では、情報消費の深さが異なる。

(3) 相互作用性(自己発信・体験の拡張)
体験者がSNSや動画で和太鼓の演奏を発信し、新たな視聴者を引き込むことで情報が循環する。
例:「和太鼓パフォーマンスを体験してみた!」というYouTube動画が拡散され、新たな体験者が生まれる。
和太鼓 × 生成型経験経済の情報消費モデル
(1) 情報の提供(Input)
和太鼓体験の場が用意され、情報が発信される。
・ 地域の和太鼓教室・ワークショップ(初心者向け、観光客向け)
・ プロの和太鼓グループによる体験イベント(エンタメ型)
・ 神社・祭りの和太鼓体験(文化・歴史を含む体験)

(2) 情報の取得(Experience)
参加者が実際に和太鼓を叩き、振動・リズムを五感で体験する。
・ 和太鼓の音圧や振動が身体に響く感覚
・ 仲間との「せーの!」の掛け声による一体感
・ 伝統的な和太鼓のリズム(例:「秩父屋台囃子」や「三宅島神着神輿太鼓」の演奏鑑賞・体験)

(3) 情報の個別解釈(Internalization)
体験者が自身の価値観と照らし合わせ、和太鼓の意味を再構築。
・ 「日本の伝統文化に触れた!」と感じる外国人観光客
・ 「太鼓のリズムがスポーツのトレーニングに活かせそう」と考えるアスリートとのコラボ
・ 「仲間との一体感が最高だった!」と感動する参加者

(4) 情報の発信(Output)
体験者がSNS・クチコミ・動画などで和太鼓の魅力を発信。
・ TikTokで「和太鼓体験してみた!」動画を投稿しバズる
・ Instagramで「太鼓の音が最高!」と感想をシェア
・ YouTubeで「和太鼓のリズム解説」動画を公開

(5) 情報の循環(Ecosystem)
発信された情報が新たな体験者を呼び込み、和太鼓市場が拡大。
・ SNSのバズり → 体験希望者が増える → 体験イベントが増える → 文化の認知度が高まる
・ 海外で「和太鼓エクササイズ」が流行 → フィットネス市場との融合が進む
まとめ
現代の消費はモノ消費から、経験・体験を通じたコト消費へとシフトし、そこからさらに消費した情報を消費者が自身の価値を付与し、発信をする「生成型経験経済」へ移行している。 これは身体的没入感、多角的なコンテクスト、多層構造的な価値を持ち、情報消費は単なるデータ取得ではなく、自己表現と発信を伴う。

和太鼓はこのモデルと相性が良く、①振動やリズムを五感で体験(身体的没入感)、②祭りや文化と結びつき価値が高まる(コンテクスト依存)、③SNS発信で情報が拡張し新たな体験者を生む(相互作用)特徴により、演奏そのものに様々な価値が付与され、それは地域産業に経済波及効果をもたらす可能性を秘めている。

和太鼓市場は情報提供→体験→解釈→発信→循環の流れで拡大し、文化の継承や新市場の創出につながる。和太鼓奏者・団体はその対価として得た報酬で経済的地盤を固め「芸術表現としての演奏活動」を通じて収益を得れるようになる。

第2章まとめ「文化資本と公共財の性質を活用した体験型経済への適応が新たな風を生み出す」

和太鼓は「文化資本」としての性質を持ちつつ、公共財としての側面と経済資本としての側面を持つ稀有な楽器である。和太鼓演奏は高い価値を持ちながらも、従来の経済原理には適応しにくいことから和太鼓奏者・団体はボランティア・低報酬で請け負うことになり、結果的に和太鼓奏者は市場を離れ、消費者も生まれにくい構造から市場規模は縮小するという課題を抱えている。

筆者及び弊団体はそういた課題に対して『生成型経験経済への適応』という新たなモデルを提示する。それは『体験・経験という情報によって得られる変化を自身の表現へ昇華』させることで双方が対価を得るモデルであり、和太鼓の文化資本・公共性の価値を落とさずに経済原理に適応させる可能性である。

とはいえ、この生成型経験経済は『一次情報が即座に加工され編集され補てんされて発信される』という性質上、情報が自らの手を離れ、思いもよらない形で拡散されてしまうリスクを孕んでいる。そのため、このモデルを活用する際は、想定される誤認に対する対策や、拡散された情報に対する受け皿を用意する必要がある。

そしてこの活動は『地域産業と結びつくことで、新たな価値を創出し、地域経済の活性化』へと寄与する。これが和太鼓市場の拡張をもたらし、消費者が多く生まれることで、和太鼓奏者・団体の芸術表現の演奏活動にも関心が生まれやすい土台が形成される。

その結果、和太鼓奏者・団体は公演による収益を確保可能になり、さらなる表現活動への没頭が可能になる。

それが和太鼓業界の未来を切り拓き、100年後も残る産業へと発展すると筆者及び弊団体は信じている。

和太鼓と経済シリーズの最終回となる次章では『和太鼓奏者が資本主義の中で生きていくための経済的・社会的可能性』を論じる。

参考文献

Webサイト
第10回観光戦略促進タスクフォース 新しい観光資源の開拓
文化庁:メセナ活動実態調査
公益社団法人 企業メセナ協議会
来日外国人の動きが、観光から体験型に変化  亀戸梅屋舗で開催の和太鼓ワークショップが訪日外国人に人気!
「一体感の醸成だけじゃない」太鼓一筋33年のプロが提供するチームビルディング
富岳太鼓ブログ 11/22 食事付きコンサートもやってます
外国人留学生のための和太鼓体験教室「和太鼓 Work Shop」開催
市場を創造した8人のマーケター(3)浅野太鼓楽器店「技術的に、ものづくりを極めるだけでは不十分」

書籍
ディスタンクシオン
文化資本: クリエイティブ・ブリテンの盛衰

経験経済
ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム

日本太鼓研究機関 鼓蓮について

最後に和太鼓が打ちたくなるWebマガジン 太鼓日和を運営する日本太鼓研究機関 鼓蓮について紹介をして本稿を締めたいと思う。

私たちは『和太鼓教室 鼓蓮の運営』『和太鼓演奏派遣事業』『太鼓日和』の3つの事業を運営する和太鼓団体である。和太鼓業界がよりよく発展するために「教育」「演奏」「研究」の3つの柱を軸に活動している。

『適正価格での和太鼓演奏の実現』『和太鼓を活用した組織づくりのサポート』『和太鼓団体・奏者に対する演奏場の提供』を希望する方はお気軽にお問い合わせください。

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