鼓舞とは何か?:太鼓と鼓舞の関係性について
- 2020.03.16
- コラム
「鼓舞」とは「励まし、奮い立たせること」という意味を持つ言葉で、日本では古くから使われていた言葉の一つです。
「鼓舞」という言葉を聞いたことがある方は多いかと思いますが、鼓舞という言葉の意味をなんとなく使っていて、ちゃんとした意味や鼓舞という性質、言葉の由来など本質的部分まで知っているという方はより少ないのではないでしょうか?
鼓舞は情報に溢れ、不特定多数の多くの人とコミュニケーションをすることが出来るようになった現代だからこそ、効果的な言葉であり、性質であると思います。
私は埼玉県川越市を中心に活動する和太鼓団体に所属してるのですが、私たちの演奏を聴いて「元気をもらった」と感想をいただけることが多々あり、誰かに対して鼓舞することができていると思うと誇らしい気持ちです。
今回は「鼓舞」という性質について書いていきたいと思います。
鼓舞の意味
こ ぶ [1]【鼓舞】
参照元:大辞林 第三版
( 名 ) スル〔鼓を打って舞わせる意〕励まして勢いづけること。奮い立たすこと。 「士気を-する」
「鼓舞」は「こぶ」と読みます。「鼓」は太鼓を意味する言葉ですが、「叩く」「打つ」「打ち鳴らす」「奮い起こす」という意味がある言葉です。
「舞」は「踊る」「舞う」の他に「励ます」といった意味を持ちます。太鼓を打つ音の勢いや舞の囃し立てる様から「激励する」「励ます」といった意味を持つようになったと思われます。
鼓を叩き舞手の気持ちを高揚させるということから、鼓舞という言葉には「奮い立たせる」という意味が付いたと考えられます。
鼓舞は精神的部分において励ます、奮い立たせるという意味合いが強く、物理的な援助ではなく、ネガティブな感情や雰囲気、精神的疲弊、マイナス思考に対して後押しする言葉となります。
そのため、現代社会における「鼓舞」とは物理的な励ましではなく、相手を奮い立たせる一言や気持ちを高揚させる音楽などから得られる精神的な支えや後押しに対して広く使われます。
鼓舞の由来
「鼓」と「舞」と書いて「鼓舞」となりますが、言葉の由来は戦への出陣前における儀式からであると言われています。古来の日本では合戦へ出陣する際に、神仏への勝利祈願としての奉納の舞や、兵士の士気を高める儀式を行っていました。その際に使用されていたのが「太鼓」と「舞」です。
また、太鼓には心臓の鼓動とシンクロすることによって感情を高揚させる性質があります。世界中で太鼓のリズムは人の感情を囃し立て気持ちを高揚させる性質は用いられてきました。日本では和太鼓によって人の気持ちを奮い立たせ、興奮状態にしていたのです。
古来の日本では太鼓によって士気を上げ、戦へ出陣する兵士の気持ちを高めることに対して「鼓舞」という言葉を使用しました。
鼓舞の性質は出陣前だけでなく、戦の局面においても活用されました。日本では奈良時代に記された「軍防令」には各軍団ごとに角笛と太鼓2面を置くと規定されています。これは戦において軍隊への進退を指示するために太鼓が使用されていたためです。
この戦における指令や軍の士気を上げるために用いられる太鼓のことを「陣太鼓」と呼びます。大河ドラマ「麒麟がくる」でも陣太鼓が劇中に登場しています。当時の巻物にも陣太鼓は描かれており、太鼓打ちは、戦国時代まで盛んであった田楽の奏者である田楽法師が担当していたと言われています。
太鼓の持つ心を高揚させるという性質は、軍の士気を鼓舞し、勢いを与えていました。鼓舞という言葉は戦での儀式や太鼓の性質を由来とし、生まれた言葉になります。
鼓舞と同義語である「鼓吹」
こ すい [0] 【鼓吹】
参照元:大辞林 第三版
( 名 ) スル〔太鼓をたたき、笛を吹く意から〕
① 励まし、元気づけること。鼓舞。 「ハイカラ空気を一洗する為め大に蛮勇を-する必要がある/社会百面相魯庵」
② 意見を盛んに主張し、他人を共鳴させようとすること。 「写生文を-する吾輩でも/吾輩は猫である漱石」
「鼓」に「吹く」で「鼓吹(こすい)」と書きますが意味は鼓舞と同じく「励ます」「奮い立たせる」「勇気を与える」という意味になります。
「舞」の代わりに使用されている「吹」は「笛」を意味します。太鼓を叩いて笛を吹き鳴らす際の人の心を囃し立てることから鼓舞と同じ意味を持つ言葉として使用されています。
また、鼓吹には意見に主張して相手を共鳴させる(気持ちを焚きつける)という意味もあります。これは「笛」の持つ共鳴という性質と太鼓の持つ高揚という性質を合わせた意味で、鼓舞とはまた違う角度での「気持ちを奮い立たせる」という意味を持っています。
日本に古くからある伝統的な音楽の一つに「囃子」があります。囃子は日本の芸能の中にほとんど登場する音楽形態で、場を囃し立てる伴奏音楽として確立しています。
代表的な囃子として能や狂言で使用される能囃子(四拍子)や祭において神輿や山車を囃し立てる祭囃子(江戸囃子など)があります。囃子には太鼓と笛が使用され、軽快なリズムに笛の旋律が流れる形式となります。
囃子にも高揚感という性質が使用されており、舞手の気持ちを高めたり、観客を興奮させたり、場の空気を盛り上げたりする効果があります。
鼓吹という言葉に使用される「笛」もまた、太鼓と同じく古くから日本人の感情を高揚させ、元気付ける音として愛されてきました。
鼓舞の対義語である「鎮撫」
ちん ぶ [1]【鎮撫▼】
参照元:大辞林 第三版
( 名 ) スル乱をしずめ人心を安定させること。
「明君賢相の世に出でて之を-するやう願はし/福翁百話諭吉」
鼓舞の対義語に「鎮撫」という言葉があります。鎮撫とは「鎮める」に「撫でる」と書きます。興奮した状態を鎮め、心を安定させるという意味があります。
心を奮い立たせる鼓舞とは正反対の意味を持つ「鎮撫」ですが、日本芸能において「鎮まる」という言葉は神事である神楽において重要な意味を持つ言葉です。
余談となりますが、神楽は日本において最古の芸能であり、現在も日本中に様々な形で伝承されています。神への奉納の舞として豊作や子孫繁栄など様々な場面で演じられてきましたが、神の鎮めるという意味でも神楽は演じられました。疫病の流行や災害に対して神の怒りを鎮撫させる際に神楽は奉納されました。
太鼓や笛は神楽でも使用されていました。怒りを抑える鎮撫の儀式においても使用されていたと想定されます。太鼓の持つ高揚感は神との交信の際にも使用され、鎮撫という反対の意味を持つ儀式の中でも重要な楽器として存在していました。
話は逸れてしましましたが、奮い立たせる言葉もあれば鎮めることも言葉もあります。そのどちらにも太鼓という同じ楽器が登場するシチュエーションは違くとも使用されてきました。
言葉の意味を掘り下げると思わぬ場所でつながっていることがあります。それが日本語の面白い部分です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?鼓舞という言葉の意味や由来を知ることで、正しい日本語が扱えるだけでなく、日常の中で「鼓舞されている」という状況に気づけることになると思います。
新しい言葉の引き出しを得ることで、普段の生活も少し見る目線が変わることもあるかと思います。
ぜひ、身の回りのものから鼓舞を受け、また相手を鼓舞する習慣を得るきっかけになてもらえればと思います。
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