和太鼓の「ボランティア性」と経済価値の不均衡について|和太鼓と経済 vol.1

和太鼓の「ボランティア性」と経済価値の不均衡について|和太鼓と経済 vol.1

日本古来より人々の生活の中にある「日本太鼓=和太鼓(以下和太鼓と表記)」は現代においても文化的・社会的価値が認められている一方で、経済価値においては市場の中で低く評価されている。

特に和太鼓は他の和楽器と比較しても「ボランティア性」が高く、奏者は和太鼓演奏での収益確保が難しい傾向にある。この収益確保に関しては和楽器全般に当てはまる問題ではあるが、和太鼓は特にその傾向が如実に現れている。

例えば「お囃子」は文化的価値の高さと経済価値の不均衡の代表的なケースである。お囃子といっても数多くの種類があるが、その中で最も一般的である「祭囃子」は地域のお祭りにて演奏され、基本的に無償で行われるケースが多い。お囃子の演奏は地域コミュニティの活性化に必要不可欠な要素として根付いており、和太鼓の持つ大きな力の一つであると筆者は感じている
 

【日本の祭り】お囃子を奉納!豪華な屋台が勢揃い!【花輪ばやし】Hanawa Bayashi

ここで筆者は「和太鼓演奏のボランティア性が高くなっているのは、地域の祭囃子が無償だからいけないのだ!」と主張したいわけではない。むしろ和太鼓の文化的・社会的価値の高さを裏付ける重要な要素だと強く主張したいほどである。

しかし、この地域に根付いたイメージが「それ以外の経済領域」でも印象として根付いており、和太鼓演奏に対して「適正な報酬を提供する」という経済活動の根底となる働きが起きにくくなっている点に対して問題を提示したいというのが本稿における筆者の主張である。

また、この問題は和太鼓を芸術表現とする奏者にとっての課題であり、「職業:和太鼓奏者・太鼓打ち」が直面する『経済的な持続可能性』に関する問題である。

本稿では、どうすれば和太鼓が「文化的・社会的価値を維持したまま、持続可能な経済価値を創出し、和太鼓奏者が収益を確保し、資本主義社会の中で市場を形成していけるのか」という点について全3章に分割して探っていきたい。

1. 和太鼓の「ボランティア性」の高さと市場価値とのギャップ

和太鼓そのものの認知度の高さ」についての公的な調査記録は残念ながら見つけることができなかったが、「和太鼓を知っていますか?」というアンケートを実施したとしたら、おそらく「知っている」という回答が圧倒的な票数を集めるのではないか?と筆者は予測している。

実際にNHKの放送文化研究所が2007年に全国300地点、16歳以上の国民3,600人を対象に今の日本人が好きだと感じているものの調査(有効回答率66.5%)「日本人の好きなもの」によると、2007年における最も人気のある楽器がピアノで次いでバイオリン、和太鼓は3位(1983年は15位)という結果になっている。

参考資料:NHK放送文化研究所「日本人の好きなもの」(1983年・2007年)

 

また、文化庁による『文化に関する世論調査報告書(令和4年3月)』にて、どのようなジャンルを日本の文化芸術の魅力として諸外国に発信すべきか尋ねたところ、「伝統芸能」が26.6%と最も高く、「日本の伝統音楽(長唄、箏曲、義太夫、和太鼓など)」は19.4%と第4位の位置にある。

参考資料:文化庁 文化に関する世論調査 P41 文化芸術の国際発信のための重点分野

 

2つの調査結果からも和太鼓は文化的・社会的価値が非常に高く評価されており、好印象なイメージは世論にも反映されている。

1. 文化的価値
和太鼓は日本の伝統音楽や祭り、芸能、宗教儀礼などに深く根ざした文化要素であり、以下のような多面的な価値を持つ。
(1) 歴史的・伝統的価値
起源は古代に遡り、神事や戦陣での士気高揚、農耕儀礼などに用いられてきた。
能楽や歌舞伎、祭囃子など日本の伝統芸能に不可欠な要素として発展。
和太鼓職人の伝統技術が継承され、地域ごとに異なる太鼓文化が形成されている。
(2) 精神的・象徴的価値
太鼓の響きは日本文化における自然観や精神性と結びついている。
神社仏閣の祭礼や地域の行事において、共同体の結束を象徴する役割を担う。
力強い音の振動が身体に直接響くため、演奏者・観客ともに精神的高揚感を得られる。
(3) 芸術的価値
現代和太鼓は舞台芸術としての側面を強め、和楽器アンサンブルやコンテンポラリーダンスとの融合が進む。
「鬼太鼓座」や「林英哲」など国際的に評価されるプロ和太鼓集団や奏者が登場し、世界的な芸術文化として認知される。
音楽表現としての可能性が拡張し、ジャズ、ロック、電子音楽などとのコラボレーションも進行。
(4) 地域文化の活性化
祭りやイベントにおける和太鼓演奏が地域文化の核となり、郷土愛の形成に寄与。
学校教育や地域の文化活動の一環として、世代を超えた伝承が行われる。
海外においても日本文化の象徴として普及し、国際的な文化交流の手段となる。
2. 経済的価値
和太鼓は文化資源として経済的価値も有しており、以下のような産業・市場が形成されている。
(1) 公演・エンターテインメント産業
プロ和太鼓グループ(例:「鼓童」「DRUM TAO」など)の国内外ツアー興行は大規模な経済効果を生む。
フェスティバルや劇場公演を通じて、観光業や地域経済への波及効果が期待される。
海外での日本文化公演・ワークショップ市場が拡大し、文化輸出の一環となる。
(2) 観光資源としての活用
和太鼓体験型観光がインバウンド市場で人気(例:京都や浅草での和太鼓体験)。
祭りやイベントにおける和太鼓演奏が、地域観光の魅力を高める要素となる。
和太鼓の製造地の職人技術が「地域ブランド」となり、伝統産業ツーリズムの要素となる可能性を秘めている。
(3) 教育・スポーツ・健康市場
学校教育での和太鼓導入が進み、全国の小中学校で教材化される。
和太鼓の演奏が全身運動として注目されることで、フィットネス市場(和太鼓エクササイズなど)と融合も考えられる。
企業研修やチームビルディングのプログラムとしての利用も可能(。
(4) 楽器製造・関連産業
和太鼓メーカー(浅野太鼓、宮本卯之助商店など)の製造・販売市場が確立。
バチや衣装、アクセサリー類の製造により、周辺産業にも影響。
海外市場向けの和太鼓販売が拡大し、輸出産業の一部となり得る。

このことからも和太鼓が抱えている価値は非常に高く、一大産業として巨大な市場を形成していてもおかしくないほど多大な影響力を持つ言わば和楽器界のインフルエンサーといっても過言ではないだろう。

それほどまでに巨大な影響力を持つにも関わらず和太鼓市場(特に和太鼓奏者による演奏領域)は活性化しておらず、80年代から90年代に見られた和太鼓ブームも当時ほど熱を感じなくなっている。

もちろん鼓童やTAOのように国内外で圧倒的な人気を誇り、メディア進出をしている団体もいる。また、地域密着型として全国的ではないが特定の地域で高い人気を誇る団体も少なくはない。

しかし、現状として和太鼓業界は国内の産業でも稀な文化的・社会的価値を持ちながらも、その可能性を経済的な領域で活かしきれず、燻っている状況にある。

市場に経済価値が反映されず、経済活動が好循環に至らない要因として『① 文化的・社会的価値の高さから生じるボランティア性の高さ』『② 和太鼓による経済効果が限定的であることから生じる低報酬化』『③ 和太鼓市場に消費者が継続的に留まることができない』が和太鼓市場が縮小傾向にあり、不均衡が生じている理由であると筆者及び弊団体(日本太鼓研究機関 鼓蓮)は考えている。

次項より具体的にこれら3つの問題について考察していく。


① 文化的・社会的価値の高さから生じるボランティア性の高さ

和太鼓の演奏は「和太鼓団体・奏者による舞台演奏」や「楽曲制作」といった音楽による芸術表現のみならず、「地域のお祭り」や「学校教育」、「芸術鑑賞」など広い分野で行われる。表現活動における演奏という立場はどちらも同じだが、後者においては無償または低報酬で行われている傾向にある。その要因は主に『文化的背景』『経済的背景』『認識の問題』から生じる。

  • 文化的背景: 地域の伝統行事や学校教育、芸術鑑賞の一環として取り入れられ、地域貢献や教育目的が重視されるため商業的な利益追求が二の次とされる傾向がある。
  • 経済的制約: 地域のイベントや学校行事は予算が限られており、演奏者への十分な報酬を支払うことが難しい場合が多い。
  • 認識の問題: 和太鼓の演奏そのものが「奉仕」や「ボランティア」として捉えられることが多い。

文化経済学者のデヴィッド・スロスビー文化的価値が必ずしも市場での経済的価値に直結しないことを指摘したように、必ずしも文化としての評価が高いからといって経済的なニーズを満たすわけではない。

文化財や民俗芸能(郷土芸能)は多くの場合、「公共財」としての特性を持つ。公共財は『非競合性:複数の消費者が同時に財やサービスを消費できる』と『非排除性:対価を払わなくても享受できる』の2つの性質からなり、これらは消費者が直接対価を支払わなくても文化を享受できるため、市場メカニズムに依存した収益化が難しくなる。

競合する(同時利用不可) 競合しない(同時利用可)
排除できる 私財(例:和太鼓の個人レッスン、チケット制コンサート) クラブ財(例:会員制の和太鼓ワークショップ、限定イベント)
排除できない コモンズ財(例:練習場の共有、地域の太鼓セット) 公共財(例:祭りでの演奏・無償の演奏)

公共財(非競合・非排除):祭りや伝統行事での演奏は、花火や街灯のように対価を支払わなくても享受できるもの。

● コモンズ財(非排除・競合):練習場の共有、地域の太鼓セットなど、水場のように誰でも使えるが、使いすぎると枯渇するもの。

● クラブ財(排除可能・非競合):会員制の和太鼓ワークショップのように、料金を払った人だけが使えるが、同時利用が可能なもの。

● 私財(排除可能・競合):和太鼓の個人レッスン、チケット制コンサートなど、1人が消費すると他の人が使えないもの。

例えば、和太鼓の演奏を「地域の祭りで見る」という行為に対して追加的なコストは発生しない。その演奏によって地域の結束力は高まるという影響を及ぼすも、それが市場で経済的な評価がされることは難しいため、適正価格を定めることが困難になっている傾向にある。

佐渡國鬼太鼓座の創設メンバーとして活動し、世界初の和太鼓ソリストとして新たな道を切り拓いた林英哲氏がインタビューにて

よく見かける大勢で打つ太鼓芸は伝統芸能ではありません。実はこれは戦後に生まれたもの。伝統芸の太鼓はひとりひとりがアドリブ芸を見せる郷土芸能で、素朴なものでした。

(週刊女性PRIME:『麒麟がくる』太鼓奏者の「苦悩と未来」 より引用)

と語るように、現代の和太鼓演奏の多くは御諏訪太鼓保存会の創立者にして現代和太鼓の生みの親でもある小口大八氏が1950年代初頭に考案した「複式複打法(組太鼓)」の流れの中にある。

そのため本来であれば和太鼓演奏は他の音楽ジャンルと同じ商業的価値を持ち、経済に大きく影響を及ぼすはずであった。しかし、和太鼓に対する一般的な認識が『伝統芸能』と結び付き、「和太鼓演奏=公共的なもの」という認識が生まれてしまった

それは結果として文化的・社会的価値の高さが評価される要因となり、和太鼓業界の発展に大きく影響を及ぼしたが、その評価の高さが「無償及び低報酬によるボランティア性」を生じさせてしまったのではないか?と筆者及び弊団体は問題の発生源に対してこの仮説を提唱している。

そしてこのボランティア性が「経済的な価値が正しく評価されず、機能しない現状」を生み出している。

② 和太鼓による経済効果が限定的なため、低報酬化している

和太鼓は文化的・社会的に高い価値を持ち、その演奏は地域の結束や聞き手の感性を磨く教育的な側面から現代でも評価されている。

しかし、『職業:和太鼓奏者』として生計を立てていくことは非常に困難であり、一部の限られた団体・奏者しか成功していないのも事実である。これは和太鼓業界だけでなく和楽器全体に当てはまる大きな問題であるため、一概に一つの角度から論じることはできない。そのためあくまでも「和太鼓による経済効果」という側面から問題を提示していく。

和太鼓による経済効果とは『和太鼓によって国や地域に対してどれくらいの経済的プラスが生じたかを金額という指標で示したもの』を指し、この指標が事業や投資の費用対効果として活用される。また、和太鼓に限定して言うならば、経済効果は「直接的な経済効果(収益可能な市場)」と「間接的な経済効果(観光・地域活性化への貢献)」に分けられる。

和太鼓市場の規模を示す具体的な統計データは限られているため数字で示すことは難しいが、以下の統計データから推測を行うと和太鼓市場は数十億円規模にとどまる可能性が高い

  • 日本の音楽市場: 2022年の市場規模は9,100億円で、世界2位の規模を誇る。
  • コンテンツ/エンタメ市場: 2022年の市場規模は約6,857億円。
  • 伝統芸能市場: 正確なデータは無いが、市場規模は縮小しているとの調査報告がある。
  • 和楽器市場: 和楽器を含む「その他の洋楽器,和楽器」の出荷額は約308億5,400万円。

日本の音楽市場(9,100億円)やコンテンツ/エンタメ市場(6,857億円)において、和太鼓の占める割合はごくわずかと考えられる。

また、伝統芸能市場が縮小していることからも、和太鼓市場の大きな成長は見込みにくい。

和楽器市場(約308億円)の一部として考えると、和太鼓市場は全体の10〜20%程度、30億〜60億円の範囲に収まる可能性が高い。

直接的な経済効果を生む市場は主に「楽器の製造・販売」「演奏による興行・技術提供」「和太鼓教室」が挙げられ、多くの太鼓奏者はこの市場において生計を立てる必要がある。

間接的な経済効果を生む市場は非常に広く「観光業」「インバウンド」「地域活性」「生涯学習」など多岐に渡る。しかし、前項で述べたような文化的・社会的評価の高さからくる公共財としての性質が無償または低報酬という構造を引き起こしているため、市場規模拡大に至らない状態にある。

観光やインバウンドの視点から見れば和太鼓がもたらすと予測される経済効果は確かに広大であり、世界市場に目を向ければ十分拡大余地はある。
 

【東京観光日本文化体験】【外国人インバウンド】カナダから家族4人で和太鼓体験
しかしそれは、和太鼓業界全体として見てみると非常に限定的な経済効果であり、商業ベースでの拡大は難しい傾向にあるという課題は残り続ける。

また、筆者及び弊団体では 太鼓奏者が自身の技術にしか価値を付与できていない という状態が 間接的経済効果を活かせずに低報酬に留まる要因となっているのではないか? と仮説を提唱している。

つまり、和太鼓奏者は演奏することによって『どのような経済効果をもたらす(もたらせる)』のかを明確にできていない点がこの問題をより深刻にさせているのではないか?というのが筆者及び弊団体の主張である。それが結果として経済活動の巡りを悪くし、ボランティア性を根深くしているのだ。

③ 和太鼓市場に消費者が継続的に留まることができない

和太鼓市場そのものが活性化しない要因として「市場参入者の維持が難しい」点が挙げられる。筆者及び弊団体も和太鼓業界における構造上の中で『和太鼓経験者は多いが、その経験者が継続的に和太鼓業界・市場に留まることができない』という点を非常に深刻な課題として問題視している。

本来、市場において非常に重要になるのが「経験者」の存在である。市場の発展には「新規需要」と「経験者:リピーター」のバランスが重要で、経験者が市場に多く存在していれば、継続的な消費者として経済の循環は安定し、同時に新規参入者も参入しやすい環境が生まれる

これは和太鼓市場においても同じであり、経験者が多ければ多いほど演奏人口が増え、経験者が多ければ多いほど「和太鼓演奏の楽しみ方を解説できる・発信できる人の数」も増える。その結果、演奏需要も増え、和太鼓鑑賞が市場として発展する。

実際、和太鼓経験者は全国的に見ると非常に多い。

全国に部活動として和太鼓部は多数存在し、全国高等学校総合文化祭を始め、日本太鼓ジャンボリー、全国太鼓フェスティバル、富士山太鼓まつり、全国高校生太鼓甲子園など高校生が出場する大会は数多く開催されている。

武蔵越生高校和太鼓部青龍33.34代目 第44回全国高等学校総合文化祭(2020こうち総文)

また、公益財団法人日本太鼓財団によると、同財団には約650の加盟団体があり、会員総数は約17,500人と報告されている。さらに近年、音楽科指導要領で和楽器の習得が必修となったこともあり、和太鼓に触れる機会は増加傾向にあると言えるだろう。他にも全国に存在する様々な民俗芸能(郷土芸能)も和太鼓は使用されているため、地域の交流として和太鼓に触れる機会は多くある。

実際に兵庫大学の研究では、大学生を対象に和太鼓の経験について調査が行われ、回答者の約44.5%が「1回以上の和太鼓経験がある」と答えていることからも和太鼓経験者の数は相当数いると推測される。

それにも関わらず和太鼓市場の消費者行動は巡りが悪く、市場規模は縮小しているのはなぜなのだろうか?

市場規模が縮小している要因を筆者は「和太鼓を大人になっても継続できる環境が整っていない」「和太鼓が高価であるため奏者として新規参入できない」「和太鼓の歴史や文化を学べる媒体にアクセスしにくい」という点が挙げられると考えている。

また経済活動の巡りが悪い点に関しては、経験者もまた「ボランティア」及び「低報酬」以外での報酬を受け取る方法を知らないことが、市場の発展に影響を与えていると推測している。

実際に弊団体は和太鼓集団として演奏活動をしているが、「報酬をもらえるだけでありがたい」というケースも少なくはない。また、筆者は和太鼓部出身であるが、高校の部活動での演奏においては具体的な報酬が発生しているケースが稀であった。

そして、和太鼓部出身で卒業後も和太鼓を続ける人は非常に少ない傾向にある。少なくとも筆者もその一人であり、自身の周りに関して言うならば、ほとんどの人が和太鼓から離れてしまっている。

もちろん、これは筆者の主観的な体験であるため当てはまらないケースも多々あるだろう。しかし、実際はどこも似たようなものではないかと思う。

市場の活性化を担うはずの和太鼓経験者が市場に残っていないどころか、彼らもまた「和太鼓=ボランティア・低報酬」という印象が根付いてしまっている。それは和太鼓を蔑んでいるからではない。彼らもまた自らの経験を通して和太鼓が文化的・社会的価値が高い日本が誇る伝統的な楽器であるという印象を抱いているからにすぎない。

経験者ですら和太鼓に対して対価を支払うイメージが湧かないのであれば、新規参入者はよりそのイメージが湧かないのも不思議ではない。それが経済価値の不均衡を生み出し、その蓄積が現代になって顕在化してきているのである。

第1章まとめ「文化的価値の高さが市場の発展の妨げとなっている」

和太鼓業界が抱える課題は多岐に渡る。その中でも「経済的価値の不均衡」は太鼓業界がこの先の時代でも継続的に発展し続けるためには解決しておかなければならない大きな課題であると筆者及び弊団体は考えている。

その不均衡を生み出している大きな要因が「和太鼓の持つ文化的・社会的価値の高さ」であるというのはなんとも皮肉な話ではあるが、同時に和太鼓の持つ文化資本が資本主義社会の中で適切に機能しきれていない問題解決の糸口として残ってくれていることは不幸中の幸いとも言える。

第2章では今回挙げた『① 文化的・社会的価値の高さから生じるボランティア性の高さ』『② 和太鼓による経済効果が限定的であることから生じる低報酬化』『③ 和太鼓市場に消費者が継続的に留まることができない』を踏まえた上で文化資本としての和太鼓が持つ経済的価値を考察し、それをどのようにして活かすべきかを深掘りしていく。

第3章ではさらに経済活動を活性化させるために資本主義の視点から和太鼓の経済的・社会的可能性を考察し、「和太鼓と経済」について取りまとめる形で連載を終了する。

本稿が和太鼓業界の関係者(特に和太鼓奏者)にとって経済活動を促進するヒントになれば幸いである。

参考文献

Webサイト
御諏訪太鼓公式HP
文化経済学における価値概念の役割
伝統芸能用具・原材料に関する調査事業
公益財団法人 東京観光財団

書籍
文化経済学入門: 創造性の探究から都市再生まで
文化経済学 — 理論と実際を学ぶ

日本太鼓研究機関 鼓蓮について

最後に和太鼓が打ちたくなるWebマガジン 太鼓日和を運営する日本太鼓研究機関 鼓蓮について紹介をして本稿を締めたいと思う。

私たちは『和太鼓教室 鼓蓮の運営』『和太鼓演奏派遣事業』『太鼓日和』の3つの事業を運営する和太鼓団体である。和太鼓業界がよりよく発展するために「教育」「演奏」「研究」の3つの柱を軸に活動している。

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