【対談】和太鼓は「楽しく叩くもの」|和太鼓部青龍 境 大輝
- 2020.12.20
- 和太鼓
新型コロナウイルスの世界的大流行が発生し、経済や文化、生活において深刻な打撃を与えた2020年では和太鼓に携わる全ての人が大きな影響を受けました。
当たり前のように和太鼓が叩けない環境となり、演奏する機会もなくなる太鼓打ちにとって冬の時代となりました。
影響を受けたのはプロ団体やアマチュアの団体だけでなく部活動にも多大な影響を与え、多くの学生太鼓打ちが太鼓を叩けない事態が発生しました。
今回は埼玉県越生町を拠点に埼玉県内から全国に向けて活動をしている武蔵越生高等学校和太鼓部「青龍」の境大輝さんに「コロナ以降の和太鼓」をテーマにインタビューをしました。
物心つく頃にはすでに太鼓を始めていました
−−−−こんにちは。今日はよろしくお願いします。早速なのですが、簡単な自己紹介をお願いします。
境:こんにちは!よろしくお願いします!
武蔵越生高等学校和太鼓部青龍に所属していました境 大輝です。
和太鼓は小学1年生の頃に地元で活動している和太鼓団体の「和太鼓集団~麗~」に入団をして、高校生の頃に武蔵越生高等学校の和太鼓部に入部しました。現在は部活を引退し再度、和太鼓集団~麗~に入団をして太鼓を叩いています。
−−−−小学1年生から!なぜ太鼓を始めたいと思ったのでしょうか?
境:地元で開催される「熊谷うちわ祭」には多くの山車や屋台が町内を巡回してお囃子を叩くのですが、そのお囃子が好きで小さい頃から太鼓の達人で使われる太鼓型のコントローラーでリズムを真似していたそうです。
弟の友達がそのお囃子を叩いていて、弟が誘われた時に自分もついて行ったのがきっかけで太鼓を本格的に始めました。
お囃子のリズムが好きで真似していたのは小さな頃なので、物心つく頃にはすでに太鼓を始めていた…と思っています。
−−−−太鼓を始めるのは必然だったのかもしれませんね。小学1年生からということは高校1年生の時点で太鼓歴は9年近くになると思いますが、経験年数がかなりある中で和太鼓部に入ろうと思ったのでしょうか?
境:元々中学生の頃から青龍に入部したいと思っていました。少し前の世代の代になりますが、青龍の演奏は観たことがあり、ここで自分も叩きたいと思っていました。
また、所属していた団体では年齢層の幅が広く自分が和太鼓で表現したいことが難しいと感じることもあり、青龍であれば自分の求める表現ができるのではないか?と思ったのも理由です。
あと、上手くなりたいという思いが強かったので切磋琢磨できる環境を求めていたこともあり部活動という環境に憧れていました。
実際に入部してみると想像していた環境とは違くてほとんどの方は太鼓を高校生に入ってから始めた方ばかりで、自分のように小さい頃から太鼓を叩いていた人は先輩の代を含めても数えるほどでした。
和太鼓は楽しく叩くものだということを学びました
境:先輩方は本当に上手くて理想に近かったのですが、太鼓を始めたのは高校生からと知ってビックリしたのを今でも覚えています。
また、部活動に入って自分が教える立場になるとは思ってもいなかったので当時はギャップを感じていたこともあります。
ゼロから一つずつ技術や経験を積み上げていく過程に参加する中で、どんどん変化していく同期を見て私自身太鼓に対する向き合い方や演奏に対する心の持ちように大きく影響を受けました。そして、多くのことを学べたと思っています。
未経験の方から教わることがとても多く、青龍は自分自身で「変わった」と思えるほど成長できた場所でした。
−−−−仲間から多くのことを教わった部分とは具体的にどのようなことでしょうか?
境:少し恥ずかしい話にはなるのですが、入部した直後は「俺は小学1年生からやってるから」という気持ちが正直ありました。でも、1年足らずで一気に上達していく仲間を見て「年数は関係ない」と思い考えは変わりました。
ゼロから1つずつ経験や技術を積み上げていく過程に自身も参加していく中で、最初は自分と同期の太鼓に対する向かい方や、演奏に対する気持ちの持ちよにズレがありましたが、お客様の前で演奏を沢山したり、全国高等学校総合文化祭の県大会で最優秀賞を取るという目標に向かっていくに連れてチームの士気がどんどん上がっていくのを感じました。
「気持ち」という精神的な部分の話になってしまいますが、太鼓に対して真摯に向き合うことで年数など関係なく一気に上達できるのだということに気付きましたし、自分も青龍に所属してから太鼓に対する向き合い方がより真剣になったと思います。
そして、「和太鼓は楽しく打つもの」だと強く感じました。
−−−−どういった経緯で「楽しく打つもの」だと感じましたか?
境:僕は元々太鼓が上手くなりたくて和太鼓部に入部しました。切磋琢磨して技術を磨き、和太鼓で自身の目指す舞台表現を実現することが目的だったので自分に対して厳しくきっちりとしていました。かなりスパルタ的だったと思います。
でもそれは「自分が楽しく太鼓を叩きたい」という想いがあり、そのためには自身が和太鼓に対して厳しくあるべきだと思ったからなんです。
でも同じ代の仲間と出会って良い意味でふざけることができました。
厳しくあるべきと思ってスパルタな思想だった自分が仲間と和太鼓を通じて面白おかしくふざけ合うことができる…これは今までにない体験でしたし、自分にとって最も大切な時間でした。
和太鼓の音で遊んだり、思いついた表現をふざけながら試してみたり、仲間と他愛のない会話で笑ったり…そういう時間が舞台表現に直結していくというのを何度も体験しました。
その過程を得て、和太鼓は「楽しく叩くもの」だということを学びました。」
自分たちの代は、本当に個性が強い人の集まりなんです。
例えば、すごい面白い演奏をする人や、かっこいい演奏をする人、ひたすらテクニックを磨く人…など演奏スタイルや太鼓への向き合い方、こだわりが異なる人が沢山います。
自分は「ただ太鼓を楽しく叩きたいだけの人」だったのでみんなの個性の強さを感じてより一層和太鼓の楽しさに気づけた部分はあります。
演奏できる機会は今年は少なかったけど本当にこの代に入部できて良かったと思ってます。
人前で演奏できることや、仲間と太鼓を叩けることはとても幸せなこと
−−−−今年の2月からコロナウイルスの流行で部活動にも大きく影響がでたと思うけど、その時のことは覚えている?
コロナが流行る前は演奏する機会もたくさんあったし、演奏も毎日できました。でもコロナウイルスの流行で学校自体がそもそも無いので部活動そのものも自粛ですし、当然太鼓を演奏できる場所もありません。
自粛期間は廃人状態で、「自分は何のために部活に入ったのか?」と生きる活力にも近い和太鼓を失い呆然としていました。
人前で演奏できることや、仲間と太鼓を叩けることはとても幸せなことであるという事実に気がつき、和太鼓と仲間が恋しくなりました。
−−−−最後の8ヶ月は途方にくれた状態から引退までは、何をモチベーションに走り抜けれたのでしょうか?
境:そうですね…やっぱり全員の気持ちが一つになったのは最後の定期演奏会だったと思います。
例年とはもちろん違う形での開催となりましたし、状況も異なりましたが、みんなで最後の定期演奏会に向けて演奏が減った分の全てをぶつけようって決めました。
それでも最初は中々全員の気持ちが一致せず苦労をしました。やはりコロナウイルス大流行で失われた時間は大きくて、モチベーションを上げるのは大変でしたね。こんなに太鼓を叩かない期間も無かったですし、やっぱり目標としていた演奏が全て中止になってしまったことも大きかったです。
それでもみんなで声をかけ合って最終的にはみんな一つの目標に向けてモチベーションを上げることができたかなと思います。
−−−−モチベーションを保つのは中々大変ですよね。しかも今まで経験したことのないストレスに当てられたわけですし…
境:自分にとっても味わったことのない感情で戸惑いが大きかったので、みんなも相当しんどかったと思います。
−−−−実際に多くの演奏が中止になる中で、部活動自体も自粛になって長い期間太鼓を叩けなかったと思いますが、久々に太鼓を仲間と叩いたときはどんな感情が湧きましたか?
「やっと叩けた」という感情が大きかったです。
今まで太鼓を叩けない期間といってもテスト期間の1週間とかなので数ヶ月単位は今までの太鼓人生の中でも初に近かったので太鼓を叩けることが新鮮に感じました。
仲間と一緒に太鼓を叩いた時は「初めてディズニーに行った時」のような感覚で、目の前にお客様はいないのに「目の前に見ている方がいる」と錯覚するほどみんな笑顔で太鼓を叩いていて、声も本番の演奏ぐらい出していて最高のパフォーマンスができました。
もちろん、数ヶ月離れていたことで技術が落ちている部分もありました。それでもこのまま人前で演奏ができるぐらい良い演奏ができました。
この時、改めて「和太鼓は楽しく太鼓を叩くべきだ」って思いました。
おそらく太鼓に対する姿勢がみんな変わったんだと思います。
コロナを経験したからこそ「元気にしたい」という想いをしっかりと乗せたい
−−−−コロナを得て起きた「太鼓に対する姿勢の変化」はどのような変化でしたか?
演奏に対してかける想いは大きく変化したと思います。
もちろんコロナ以前の時も本気で太鼓に取り組んでいましたし、お客様に楽しんでもらうために創意工夫をしていました。
それでも「太鼓を叩けるのは当たり前ではない」という経験をしたことで一打一打に乗せる想いが大きくなったと思います。
コロナのせいで色々ネガティブなこともあったけど「人前で立つこと」に対する価値観は大きく変わりましたし、太鼓を叩けることへの喜びを深く感じることができました。
この経験は今後も活動でも活かしていきたいと思います。
−−−−その経験は確実に活きると思いますし、きっと大輝くんはとても強い芯を持った太鼓打ちになれると思います。
境:ありがとうございます。
−−−−太鼓業界全体でもコロナウイルスの影響で大きく価値観が変わり転換期を迎えていると思うけど、大輝くんから見て和太鼓団体は今後どのような活動をするべきだと思う?
コロナの影響でどの団体も演奏する場所は無くなりましたし、観に行く機会も無くなりました。自分も演奏するだけでなく、プロやアマチュア団体の演奏を見にいけなくなっています。
演奏を見る時、自分は太鼓の音に「元気をもらう」ことが多いのですが、今の時代だからこそこの「元気をもらう」という太鼓の性質が大切になってくると思います。
自分はこの先演奏をする時、コロナの影響を経験したからこそ「元気にしたい」という想いをしっかりと乗せたいと思っていますし、同じ経験をした太鼓団体も同じようにその想いを太鼓に乗せて欲しいと思っています。
和太鼓の魅力は生音でないと伝わらない部分がありますし、和太鼓の響きは音源だと感じれないものです。なのでコロナ以降も演奏を見ててくれるお客様と和太鼓を演奏する奏者の関係は変わらないはずです。
この時代を得たからこそ、和太鼓の響きはより聞いている方の心に響くと思います。
−−−−ありがとうございます。最後に部活引退後の自身の活動について教えてください。
境:今後も太鼓は続けていきます。
今の夢は職業として「太鼓打ち」になれるように稽古をしています。
この時代を経験したからこそ、聴いている方に元気を届けられるプロの和太鼓奏者になれるように精進していきますので応援していただけますと嬉しいです。
境 大輝(さかい だいき)
武蔵越生高等学校 和太鼓部青龍 33代目部長。
2008年に和太鼓集団〜麗〜に入団し、和太鼓を始める。
2018年に青龍に入部し、越生を中心に関東圏内で演奏を行い、2019年夏に33代目部長に就任。
2020年部活引退後は和太鼓集団〜麗〜に再入団し、現在はプロを目指して日々精進中。
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