【対談】和太鼓の原点に立ち返るチャンス|和太鼓集団 鼓蓮 向井大樹

【対談】和太鼓の原点に立ち返るチャンス|和太鼓集団 鼓蓮 向井大樹

新型コロナウイルスの世界的大流行が発生し、経済や文化、生活において深刻な打撃を与えた2020年において、多くのアーティストが活動の休止を余儀なくされました。

そして和太鼓業界もまた新型コロナウイルスの影響により活動の休止が相次ぎ、団体の存続の危機や和太鼓奏者としての生活の困難など多くの問題が発生しました。

そんなコロナ以降の世界において「和太鼓とどのように向き合っていくべきなのか?」「今後どのような形で和太鼓活動を行っていくべきか」を考えている団体や奏者が多いのではないかと思います。

私自身もコロナを受け和太鼓に対して自身の中で「変化した」と思うことが増えました。

太鼓日和では和太鼓活動ををしている奏者の方に「コロナ以降の和太鼓」をテーマにインタビューを行いました。

価値観が大きく変わりつつある昨今において、どの様な考えをもって活動をしていているのか聞いてみたいと思います。

今回は埼玉県川越市を拠点に活動をしている和太鼓集団 鼓蓮の代表を務めている向井大樹さんに「コロナ以降の和太鼓」をテーマにインタビューをしました。

「自分の中で太鼓が非日常になりかけている」

−−−−お久しぶりです。同じ団体に所属していますが、ほとんど会わなくなりましたね。

向井:そうだね。この間久々にみんなで集まったけど4月が最後だったから…半年振りだったのかな?こんなに会わない事はないから不思議な感じ。

後、インタビューも不思議な感じするね。
太鼓日和は鼓蓮とは独立しているからこの話を聞いた時はビックリしたよ。

−−−−今日は「コロナ以降における和太鼓について」をテーマとしたインタビューになりますのでお手柔らかにお願いします。
まず最初に自己紹介として、コロナ以前は主にどのような活動をされていたのか教えてください。

向井:6歳から地元の和太鼓団体に所属して、高校3年生まで地元団体にお世話になっておりました。

恵まれた事にとても良い先生に出会えたので12年間お世話になった中で組太鼓の全国大会に出場したり、ワールドカップでの演奏をしたりと沢山の経験をさせて頂きました。

高校生になってからは、部活動での和太鼓と東京のプロ和太鼓団体の見稽古、パーカッション楽器の稽古、地元の和太鼓団体と毎日が和太鼓尽くしの日々を送っておりました。

高校の部活動では自分作曲の楽曲で全国大会に挑ませて頂いたり、今思うとこの時期がめちゃくちゃ濃い時間を過ごせたのだと思います。

−−−−10代の頃は毎日が和太鼓だったんですね

向井:そうなります。高校を卒業してからは、関西にあるプロ和太鼓団体に所属させて頂き、世界20ヶ国400公演にも及ぶ舞台を経験させて頂きました。

その後、10年程表舞台からは離れましたが、また舞台の上で和太鼓をやりたいと思い仲間と和太鼓集団鼓蓮を立ち上げる事となりました。

鼓蓮は和太鼓から数年以上離れていた太鼓好きが集まって結成された団体なので、実は10代の頃に頑張っていた遺産でなんとか頑張っているところもあります…なので僕としては10代の頃に戻った様な懐かしさとフレッシュさがあるチームです。

コロナウイルスが流行する前は1周年に向けて稽古に励んでいるのが主な活動でした。

−−−−新型コロナウイルスの世界的流行を受けて、 コロナ以前と以後でご自身の中で和太鼓との関係性に変化はありましたか?

向井:コロナウイルスの流行によって、人が簡単に集まる事が難しくなった為、今まで当たり前のようにあった舞台だったり、練習場所が無くなってしまった事は自分にとって大きな変化でした。
それにより今まで当たり前のように顔を合わせていた仲間との時間が少なく無くなりました。

−−−−当たり前だったものが当たり前でなくなる…これは大きな変化ですよね

向井:僕の場合、太鼓はもちろん好きですが、仲間との他愛もない会話の中で生まれる笑いや一緒にいれる時間が大切だったため、少なくなってしまった事が非常に残念な事です。

−−−−当たり前が当たり前でなくなる中で、逆にコロナ禍になっても変わらないものはありましたか?

向井:変わらない事と言えば、久しぶりに合う仲間は変わらず素敵!
太鼓という楽器も変わらず素敵です!やっぱり和太鼓は楽しいと思います。

この間久々に会った時も和太鼓を叩かなくても笑いが絶えない空間になるのは鼓蓮最大の変わらない魅力だと思います。

ちなみに、先ほど話に戻ってしまうのですが…コロナ以降の和太鼓に対する大きな変化といえば、太鼓から長い間離れた事により自分自身が太鼓の音に対して「うるさい音」という感覚が鋭くなったかもしれないです。

−−−−和太鼓の音に対して以前とは捉え方が変わったと…

向井:今まで自分の日常の中に太鼓が当たり前のように存在していたせいか、太鼓を打たない日々が半年近く続いて自分の中で太鼓そのものが非日常になりかけている…と感じます。

結果、太鼓の音自体が自分の中でも「物珍しい音」になってきて「うるさい音」という感覚を感じるよになりました。

時々稽古していると「うるさい」と注意されてしまうことがあるのですが、以前では「何がうるさいのか」が完全に理解できていなかったところがあります。

音が大きいのか?それとも音が乱雑で騒がしく感じるのか?

太鼓から離れたことでこの「うるさい」という感情が感覚的に分かってきたと思いました。

「確かに和太鼓の音ってうるさいと感じることがあるなぁ」って。

この変化に関しては自分にとってはポジティブに捉えていて、今までよりも耳が太鼓打ちから太鼓を聴く側の耳に近くなったと捉えています。

音のズレとか強弱とかだけでなく、音のバランス感や響きの強さなど様々な視点を一般的な目線から聴けるようになったと感じています。

太鼓の曲に関しても音楽というジャンルの中でフラットかつ客観的に聴くことができるようになったことで、前より鋭くなったような気がします。

「生演奏以外の方法でどのような作品を作るべきなのか?を考えることが重要」

−−−−和太鼓との距離感が太鼓打ちでも非日常に感じるほど遠くになったというのは衝撃ですが、それによって得たものもあるということですね。
和太鼓の音を日常の中で聴かない方は、もっと和太鼓との距離が開いたと思いますが、コロナを受けて今後自身はどのように活動していこうと考えていますか?

向井:まずはコロナを受けて「大好きな太鼓という文化」を継続させる事、無くならないように自分達はどうしていくべきかを考えることが前提条件として置くようになりました。

コロナが流行し出した最初の頃は、アマチュアとして活動している僕達が入念に対策を取りながらも舞台を続けたとして、そこでもしクラスターが発生してしまうと僕達よりも前線で活躍していらっしゃるプロの方々、舞台に携わる全ての人に迷惑を掛けてしまうのではないか?という心配が勝りました。

−−−−鼓蓮の結成1周年公演もコロナの影響を受けて中止とし、活動自体も無期限で休止したのも「業界全体を減速させるかもしれない」という心配も決断の一つなのでしょうか?

向井:そうですね。
特に4月の頃はコロナウイルスに対しての認識も今よりも不完全で、どの様に対策を立てるべきなのか?が不透明な部分もあったため中止という決断に至りました。

今は「コロナを撲滅する」という考え方だけでなく「コロナと共存していく」という考えが生まれてきたこともあり、未来の展望はますます読めない状態になってきました。

そのため、どのように自分達の作品を届けられるかが課題だと思っています。

−−−−自分たちの作品を届ける方法としてどの様なことを考えていますか?

向井:エンターテイメント業界では演奏をオンライン配信する傾向になり、太鼓団体も多く取り入れる潮流があります。僕はそれも1つの手だと思います。

ですが、映像では届けられない生の演奏がやはり良いと考える人も多いと思いますし、特に太鼓は五感で感じる楽器なので他の舞台芸術の中でも特に多いのではないかと思っています。

ここからは持論ですが、コロナ以降で自身の作品を不特定多数の方に適切にと溶けるためには、例え映像で配信するにしても「自分達の生の舞台で観た人は何に感動し心動かされてきたのか?」を考え一度言語化をして組み込んでいく必要があると思います。

−−−−なんとなく配信するのではなく自身の強みをしっかりと生演奏以外の媒体でも伝わる様に工夫するべきということでしょうか?

向井:その通りです。

例えば、自身の演奏を観て感動してくれた人は「太鼓の大きな音による響き」「打楽器だけのアンサンブルという物珍しさ」「演者の声や表情」「和楽器による日本の伝統的な音色」に惹かれたとした時、これら一つ一つに対して「なぜ感動してくれたのか?」を表面上のことだけでなく本質に近い深い部分まで考え抜くことが大切です。

深く掘り下げた時に自身の団体の強みが「非日常感を味わえること」だとした時、それらを理解した上で、生演奏以外の方法でどのような作品を作るべきなのか?を考えることが重要だと思っています。


芸能や祭礼で使われていた「背景の音としての和太鼓」から舞台で演奏される「主役としての和太鼓」に演奏形態や価値観が変化したように、コロナ以降では生演奏以外での新たな表現の形が求められると思います。

「太鼓打ち同士が今よりも横の繋がりを強く持ち、協力し合う事が大切」

−−−−今後は和太鼓も生演奏以外の表現方法がどんどん変化してく…という事ですね。
変化することが余儀なくされている和太鼓業界全体に対して自身の展望はありますか?

向井:正直な話…和太鼓業界という広い視点で見ると「分からない」というのが本音です。

頑張って踏ん張らないと太鼓そのものが衰退する可能性はありますし、コロナ以前から和太鼓業界という狭い世界に対して「この先の未来は衰退する可能性もある」と思う部分もありました。

世の中は無情なので必要無くなったら、どんなに盛り上がった文化であろうとすぐに衰退して消えてしまいます。

−−−−悲観的ではありますが、コロナの影響もありその可能性はゼロではないと…

向井:頑張って踏ん張るには和太鼓業界だけの力では太刀打ちできない問題もあります。

ただ、コロナの影響を受けて和太鼓業界でも業界そのもをの守ろうとする動きはありますし、国へ直談判することもありました。

こういう働きかけを続けていかないと簡単に衰退に追い込まれてしまうかもしれない…と思います。

−−−−文化を守るのは太鼓打ちみんなで行動を起こさなければいけないということですね。

向井:なので、まずは太鼓打ち同士が今よりも横の繋がりを強く持ち、協力し合う事が大切だと思います。

そして、お互いの文化、音楽、芸術を認め合い尊重する事が重要です。
和太鼓業界は大きく分類すると「伝統」と「創作」に分かれますが、それぞれが互いの良いところをしっかりと尊重して互いに文化を守るために手を握るべきです。

−−−−業界全体が一丸となって行動を起こされば大きな波になって訴えることもできますからね。
そのためには太鼓打ち同士で互いの文化を尊重し理解し合う様に繋がりを作ることが今後の和太鼓業界で重要になってくるということですね。

向井:狭い業界の様で実はかなり深いのが和太鼓業界です。それに他の和楽器や芸能との関係性もあるので互いに認め合う姿勢は大切な要素です。

あとは、僕の願望で和太鼓業界がこうなると面白いだろうなと思う考えがあります。

僕はこの先、和太鼓界から「アート思考」を持ったアーティストが増えていくと良いなと思っています。

−−−−「アート思考」ですか?

向井:アート思考には明確な定義はまだありませんが、「芸術家の考え方を取り入れた思考法」と言われています。

アーティストは「自己を探求」し社会に対する見方や意見などをアート表現によって訴えかけますが、その時に使われるアーティストの考え方に対して「アート思考」と呼び、今ビジネスでも話題になっている考え方です。

一つの花をアートに例えると花の部分が「表現=作品」、種の部分が「興味=好奇心」、根の部分が「探求=探究心」となります。

目に見える花を「アート」と捉えがちですが、その作品は「興味の種」によって芽生えた「探求の根」が追求していった深掘りした文化や歴史、物事の本質や性質がしっかりと張り巡らされているから「表現の花」を咲かすことができています。

アートは目の前にある「成果物」だけでなく、その背景にある様々な要素が重なってできるものです。

まぁ…これは最近読んだ本の受け売りなんですけどね…

−−−−アートは私も好きなのでその考え方はよく理解できますが…今の和太鼓業界はそういうアーティスト思考の方が少ないということでしょうか?

向井:これはネガティブに捉えられてしまうかもしれませんが、伸び代があるという未来への希望でもあるのでかなりポジティブな意味で発言するのですが、現在様々な太鼓団体や太鼓打ちが存在する中で、花の部分だけを創作される方が多いように感じます。

これは悪いことではなくて、パッと見た時に綺麗で美しい花をしっかりと作り込んでいるというので舞台で見ていて楽しいですし、感銘を受けます。

ただ、そこに注力しすぎていると感じます。

−−−−壮大さを求めるスペクタルな作品が多いということですね。

向井:花だけを見れば、どちらも同じ作品ですが、しっかりと根を張ったアーティストの作品は同じ花でも輝き方が違います。

作品に至るまでのルーツがあり、『自分なりのものの見方』『自分なりの答え』それによって『新たな問い』を導き出す。こういったアーティストが増えることにより太鼓に興味を持ってくれる人への間口も広がり、面白くなるのではないかと思います。

−−−−表現に至るまでの過程や背景、文脈を重要視するべきという視点は私も実は同意です。太鼓日和も「和太鼓という文化を掘り下げる」という裏テーマがあります。表面上だけではなく、しっかりと文脈に基づいた作品作りは現代アートにも通じますね。

向井:なので、そういった奥の深い作品を作ることで今までとは違う和太鼓による表現ができると思っています。僕もそこに向けて勉強中です。

鼓蓮は特にメンバー単位で<やりたいこと>が異なっていたり、太鼓に対する捉え方も違うのでそういう意味では今の期間でみんなが感じたことや学んだことを上手く表現に生かせたら団体として新しいことができるのかもしれないと思います。

そしてこうした根を張る様な動きはコロナによって活動が停止しざるを得ない状況だからこそ逆に生まれやすいのでは無いかと思います。

正に今の時代は「和太鼓の原点に立ち返るチャンス」なのかもしれないと最近は考える様になりました。

−−−−コロナによる現状だからこそ、しっかりと根を張った表現が生まれるのではないか?というポジティブな考え方は良いですね。
表現の幅を広げていくことは文化の発展に繋がっていきますし、次の時代に向けて今はじっくり考えられる最大のチャンスなのかもしれません。

向井:はい。そう思っています。

ここから新しい舞台表現も生まれるのではないかな?と明るい未来を迎えられる様に頑張らなければなりません。

−−−−では最後に新たな舞台表現を踏まえて今後の自身の活動について教えてください。

向井:うーん…少し極論ですが太鼓表現する上で「音を出さない」…とかやってみたいなぁ…などぼんやりと考えています。

これは僕の中で種と根を張らせた上でたどり着いた表現方法なのですが…まだ全然まとまっていないのであくまで「考えている」段階です。

極端ですが、そういった途方もない馬鹿な事をしたいと考えています。

それにはまだ知識も経験も少ないので好奇心、探究心を持って様々な事柄を勉強したいです。

その中で自分なりの一つの答えが導き出せた時、誰かの為のものではない、自分の出した答えを作品として残せたらいいなぁーって考えております。

 

 

 

向井大樹(むかいだいき)

埼玉県川越市を拠点に活動する和太鼓集団 鼓蓮の代表。
2007年に関西を拠点とするプロ和太鼓団体に入団後、2年間で世界20ヶ国400公演を行う。
脱退後、和太鼓からは一度離れるも2018年5月に鼓蓮を結成。
『呼ばれれば何処でも行こう!!』をスタンスにジャンル問わず積極的に活動

鼓蓮HP:https://wadaiko-kohasu.com/
鼓蓮Twitter:@wadaiko_kohasu
個人Twitter:@daiki_kohasu

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